演題名 導入時教育の問題点に関する検討
演者名 友愛クリニック
 千葉圭子、山下たみ子、吉田公子、下山博身
友愛三橋クリニック
 廣瀬 悟
学会名 第50回日本透析医学会学術会議
開催日 2005年6月26日
開催地 パシフィコ横浜
 友愛クリニックでは、現在270名の透析患者さんが、同時透析82床、昼夜2クールで透析されています。年間に迎える新しい患者さん(以下新患と省略します)は約30名で、その殆どが導入施設から直接転院してくる、いわゆる導入期の患者さんとなっています。
 このような状況の中、私たちは時々新患患者さんから“シャント音はどうやって聴くの?”、“Caってカリウムと読むのでしょ?など、基本的知識が欠けた質問を受けることがあります。そこで、サテライトへ転院してきた新患患者さんの教育状況を知るため、2004年に新規導入した患者さん24名にアンケートを実施しました。
 新患患者さんを対象とした教育状況の結果です。スライドに示すように、ほとんどの患者さんが入院中に指導を受けたと回答し、約90%の患者さんが理解した、もしくは少し理解したと回答しています。項目別にみると 透析、シャント、食事指導については、ほぼ全員が指導を受けたと答えているものの、日常生活や必要物品の購入については、半数の人が受けていないと答えています。なぜ、このような指導の不徹底があるのか調べるため、2002年1月から2004年12月までに導入し、当クリニックへ転院してきた患者さんの背景因子を調査しました。 
 スライドに示すように、新患患者さんの平均年齢は2002年が56.6歳、2003年が59.9歳、2004年が61.2歳と、年々高くなる傾向がみられます。原疾患の1位は3年間とも糖尿病性腎症が占めています。
 年齢構成のグラフです。グラフから分かるように、70歳以上の高齢患者さんが増加しています。また、ここ3年間の最高齢は84歳の男性となっています。
 導入日から当院への転院日までを在院日数として、3年間の統計をとりました。有意差には至りませんが、平均在院日数は2002年が49.9日、2003年が45.6日、2004年が37.6日と年々短縮する傾向にありました。
 年次別在院日数の構成です。スライドから分かるように、1ヶ月以内の転院が2002年の27.2%から2004年の52.2%と、この2年間で倍増しています。
 以上の背景から、導入施設の指導現場は、資質の低下した患者さんに、短期間での指導を余儀なくさせられている状況と思われます。そこで、私達サテライト施設では、転院時に医学的知識の再確認を行う必要があると考えました。
 対象は2004年に当クリニックへ転院してきた23名です。
 透析に関する知識調査の結果です。透析の目的、透析前の準備、シャント音の確認は、90%以上の人が理解しており、特に透析の目的は医師による説明も影響していると思われます。シャントトラブル時の対処、止血ボタンをはずす時間となると若干理解度が下がりました。
 今回の調査で注目すべき点は、体重増加の許容範囲、心胸比の意義、心不全の状態、カリウム上昇時の状態といった直接生命に関わる重要な知識が、予想以上に低いことです。そこで、高カリウム血症と心不全について、さらに詳しく調査しました。
 まず、高カリウム血症の症状ですが、心停止が起きることは7割以上の患者さんが理解していました。しかし、前駆症状を知っている人は、4割にも至りませんでした。
 心不全の症状ですが、高カリウム血症と異なり、初期症状を理解している患者さんが比較的多くみられました。しかし、理解している人のほとんどが、実際に心不全を経験した人で、指導により心不全の症状を理解した人が、きわめて少ないという問題点が浮かび上がりました。
 さらに、前半で示した背景因子と理解度について検討しました。スライドは年齢と理解度です。「理解している」を1点、「理解していない」を0点として、平均値を算出しています。対象が少ないため、60歳以上と60歳以下の理解度に有意差はありませんが、現実には加齢に伴う理解の減退は存在すると思います。
 次に在院日数と理解度を調べましたが、これも有意差には至りませんでした。しかし、今後ますます在院日数が短縮されれば、指導に少なからぬ影響を及ぼす要因になると思われます。
 今回の検討から、新患患者さんは透析に関する最低限の知識、すなわち直接生命に関わる知識に乏しいことが明らかになりました。高カリウム血症の初期症状は大半の人が知らず、心不全の症状を知っている人も体験者がほとんどでした。この事実は、生命に直結する知識を転院時にサテライト施設で再教育しなければならないことを示しています。しかし、この問題を根本的に解決するには、導入施設とサテライト施設が共同して対策を考えなければならないと思います。
 導入施設においては、ますます高齢化と入院日数の短縮が進み、優秀なスタッフを配置しても十分な指導はできない状況になりつつあります。指導施設が独自にクリニカルパスや指導マニュアルを見直すことも一案ですが、指導内容の優先順位やマニュアルの共通化など、導入施設とサテライト施設がそれぞれの役割分担について話し合う必要もあるのではないでしょうか。どのような最低限の知識があれば透析生活を安全に過ごせるか検討し、入院中に十分な指導ができなかった場合、転院時にどこまで理解しているか一目でわかるような申し送り方法があれば、患者さん資質にあった継続的かつ効率的な一本化した指導がおこなわれるのではないかと思われます。
 現在、さいたま市では導入施設とサテライト施設が話し合って、この問題に取り組む動きが生まれています。私達サテライト施設が患者指導に関する情報を導入施設に還元していけば、より優れた指導方法が模索できると考えています。
文責 廣瀬 悟
   
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